翔と雛 12





 異能者とは、異能を持って生まれた者を示す言葉であり、同時に自らの危険性を理解している者のことでもある。
 彼らは自身が持つ能力が暴走すればどうなるかを理解した上で、決して暴走しないように注意する。
 些細な感情で能力を暴走させ、周囲の人間を巻き込めば何が起きるのか。それを理解しているからこそ、彼らは異能者であるということを他人に言わない。
 たとえ異能を維持している家系に生まれたとしても、家族、親戚以外には異能者であると明かすことはない。例外は、同じように異能者である者か、絶対に他言しない信頼出来る者のみ。
 そして、ここ十年、異能者たちの間である噂が広まっていた。

 ある日を境に異能者になった者がいる。

   本来ならばありえるはずのない存在が噂になり、次々と問題を起こしていく。
 ある者は同級生に、ある者は生まれつきの異能者に、ある者は家族に向かって能力を使い、相手に怪我を負わせた。
 生まれつき異能者であった者は、能力を使われてもそれを受け流すことが出来る。だが、何の能力も持たない一般人はそうはいかない。
 だからこそ、異能者たちは行動を起こす。

 区別の為に『後天的な異能者』と呼ぶことにした彼らが問題を起こす前に見つけ出すと。

 先天的な異能者によって見つけ出された彼らに事情を聞いている内に、『後天的に異能者』となった者たちはある人物に能力を与えられたと言うことが明らかになった。
 始めは、誰もが耳を疑った。
 自身の能力を他人に与えるなど、不可能であるはずなのだ。過去の記録の中には他人に能力を与えた者がいるという記述もあるが、与えられた側は一週間と経たない内に身体を蝕まれ死亡したとある。それを知っているからこそ、現代の異能者は自身の能力を他人に与えない。
 にも拘らず、何者かが能力を与え、『後天的な異能者』を生み出している。それを信じられないながらも捜査を続け、彼らは知る。

 理解出来ない犯人の目的を。

 異能を与えられた者たちが聞いた犯人の目的。それらを繋ぎ合わせた末に導き出された目的は『先天的に異能を持っている者と、後天的に異能を与えられた者。その二つが争い、どちらが勝つか見たい』という物だった。

 全く理解出来ない目的だが、だからと言って無視出来るものではない。だから、異能者たちは『後天的な異能者』を見つけ出し、能力を取り上げるようにした。
 まず最初にそれを実行したのは異能を家系によって維持している者たち。
 彼らは一族内の異能者や、後継者と定められている者たちの実戦ついでに対処を始めた。

 二十五体の精霊を受け継ぎ続けてきた柚木家も例に漏れることなく、『後天的な異能者』を捜し、同時に犯人も捜していた。
 けれど、柚木家次期当主として定められている男はその二つと同時に一人の少女も捜していた。


 部屋を出た男は廊下を歩く。数ヶ月振りに帰って来た実家はまるで時間が進んでいないような錯覚を覚えるほど彼の記憶の中と変わっていない。
 だが、それは表面だけだ。家の雰囲気は変わっていなくても、確かに変わったことはある。
 久々に会った十歳年下の従妹の背が伸びていたり、庭に咲く花が別のものになっていたりといった違いはある。
 時間が流れていると実感する違いは確かに存在しているのだ。
 唐突に、背後から声が掛かった。振り向いた彼は廊下に佇む十歳下の従妹を見ると「どうした?」と聞き返す。
「さっき、帰って来たって聞いたから……。お姉ちゃん、見つかった?」
「悪いな、まだ見つかってない。あいつも本気で逃げてるからな」
 見つかってないと聞くと、従妹の顔が曇る。あからさまに落ち込んだ彼女を見て、男は僅かな罪悪感を覚える。
「翔兄でも、見つけられないの……?」
 その問いの中には縋るような響きがある。それを理解して、彼は告げる。
「大丈夫だ。絶対に見つける。芹菜も、あいつが帰って来たら思い切り困らせろ」
「……うん、そうする」
 頷いた芹菜を見て、彼は安心する。彼女の頭を撫で、玄関に向かって歩く。
 用は済んだ。なら、あとは帰るだけだ。


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