路地裏の裏切り



がつりと響いた音に、俺は荒い息を吐く。昼間でも、一度路地裏に入れば暗い。手の中の金属は、煙くさい。
ビルの壁に背を預けて、げほごほと咳き込む。ただ逃げ回っているだけで済むと思うなよ、と誰ともなく呟いて、背後から聞こえるはずの足音に耳を澄ます。
足音が響かないように気を使っていても、生きている以上呼吸で空気を揺らす。その微細な動きを感じ取ることに集中しながら、握った金属の状態を確認する。

いつもと同じ状態にセットしてくれた相棒の顔を思い出す。気の弱い、仔犬のような顔。くしゃくしゃとかき混ぜられたような癖毛。銃を持つことなんて似合わない雰囲気のくせに、あいつの整備は完璧だ。

そっと動いた空気に、俺は持っていた銃を構える。引き金にかけた指。撃つのに時間はいらない。なのに、暗殺者の顔を見て動きが止まった。

買い物帰りに路地裏に迷い込んでしまったような、あまりにも暗殺者らしくない顔。笑うと、子どものように幼く見えるあの顔で、暗殺者は俺に向かって銃を向けていた。
「お前、なんで……」
信じられないと、声色に出ていた。それでも、俺は問う。答えを返してくれることなんてないかもしれないと諦めながら、訊ねる。
「なんでここにいるんだ? その銃はなんだ?」
質問をしておきながら、答えて欲しくないと想ってしまう。相棒だと思っていた男に裏切られるかもしれない瞬間に、俺は怯えていた。それをわかっているのかいないのか、相棒であった男は微笑む。
「そんなの簡単だよ、依頼があったからさ」
だから、共同生活もこれで終わりだ、さようなら、相棒。

そんな声に続いて、銃声が響く。どさりと倒れた身体と、落ちた銃。
残ったのは、荒い息を吐く男。


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