青の春



嫌になるほど、青いと感じた。強い風で舞い上がる桜の花弁は、薄紅。その中で、笑うこいつは若い。

「ねぇ、ブレザー似合う?」
「似合ってねぇ」
楽しそうに聞いてくるから、思わず正反対の答えを返してしまう。進学校に進んだ理由は、『制服が可愛いから』。はっきりいって、最初に聞いたときは馬鹿かと思った。なのに、こいつはあっさりと合格して、目の前にいる。
「似合ってない、っていうくせに、頬っぺた赤いよ?」
白く細い指が顔に触れて、どきりと心臓が跳ねる。触れたいと思って触れたこともある指が急に肌に当たるのは、心臓に悪い。
「似合ってねぇよ、ブレザー。セーラーの方がマシだった」
「そうかなー? みんな可愛いよって言ってくれたのに」
みんなって誰だよ、と心の中で毒づく。多分、女友達だろう。それか兄弟、両親。そのはずだ。俺以外の男だったら、とりあえずそいつを殴らないと気が済まない。
「つーかお前、よく受かったな。成績悪かったんじゃねぇのか?」
「ここの制服着たかったから頑張ったのー」
ちょっと睡眠時間削ったりしたよ、と笑う顔をつねりたくなる。どうせなら、俺と同じ学校に通いたかったから、とか言えよ。
溜め息を吐いて、頬に触れたままだった指を離させる。ぽそりと名前を呼んで、呑気に首を傾げた幼馴染みに合格を祝うための言葉を告げる。

楽しそうに、幸せそうに笑うこいつに、俺は勝てない。
青春を謳歌するつもりの微笑みに、勝てたことは一度もない。



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