鳥籠



ばさばさと羽ばたく音が大きかった。小さいと思っていた鳥なのに、あんな大きな音を立てていなくなる。その現実に、わたしは鳥籠を持ったまま立ち尽くしていた。
開かれた窓。鍵を外した鳥籠。手の中の、なにもいないその鳥籠は、金属の冷たさと重みを伝えてくる。好奇心で鳥籠を開けてしまって、飛んで行った小鳥は帰ってこない。
「お嬢様?」
そっと声をかけられて、わたしは振り向く。穏やかな、少し困った顔をした執事が、わたしが持っている鳥籠を覗き込む。
「可愛がっていたのに、いなくなってしまったんですか?」
「さっき、飛んで行ったの……」
わたしは、あの鳥を可愛がっていたんだろうか。小さな、青い羽を持った鳥は綺麗だった。鳥籠の中で鳴く声も、同じように綺麗で好きだったけれど、きちんと世話をしていたのは私じゃなかった気がする。
きちんと世話をしていたのは、目の前の執事だ。なのに、彼は困ったように笑う。
「飛んで行ったのなら、きちんと戻ってこれるか分かりませんね。戻ってきたらいいんですけれど」
この屋敷に戻ってこれるようにしつけられていたのか、わたしには分からない。でも、なんとなくあの鳥はもう戻ってこない気がする。
大きな音を立てて、いなくなった鳥はわたしが毎日眺めていた小さな鳥に見えなかった。まったく違う、大空を知っている鳥のように見えたから、もう二度と小さな鳥籠の中には、戻らない。
そんな気がした。


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