敗北の思い出




見上げた空は、嫌になるほど青かった。

視界を泳ぐ白い手に、はっとして顔をあげると、いたずら好きな子どものような笑顔と視線がぶつかった。
「なにしてるんだ、お前」
「お兄ちゃんが元気なさそうだったから、いたずら? 目、開けたまま寝るとかやめてよねー、怖いから」
「言われなくてもしねぇよ、馬鹿」
ひらひらと泳いでいた手をのけて、珈琲を淹れるために立ち上がる。キッチンに向かう俺の背に、「珈琲淹れるならカフェオレ淹れてねー!」なんて馬鹿みたいな声がかかる。
妹ってのは、上の兄弟が絶対に断らないって自信でも持ってんのか?

鍋に水をいれて、湯を沸かす。暇になった脳が思い浮かべるのは、あの日の青すぎる空だ。
最後の試合で、当たったのは強豪校。みんな頑張ったよ、ってマネージャーが泣いてたが、はっきり言ってがんばったところで実力が違いすぎた。こっちの点はほとんどないまま、俺たちは負けた。三年の引退試合だからと張り切っていた後輩たちが落ち込んでいたのも懐かしい。
けれど、強豪校にあたったときに、三年は三年で勝とうが負けようがどっちでもいいかもな、って笑っていたんだ。最後の試合なら、勝っても負けても同じだなって。そんな風に笑った思い出があるから、俺の中であの日は愛すべき仲間と迎えたゴールの日で、清々しい敗北を味わった日だ。

「お兄ちゃん、カフェオレ早くー!」
でも、我が家の暴君にはこの思い出は分かってもらえそうにないな。

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