ふたりだけの教室



こつこつと机を叩く指を、じっと眺めていた。細く白い指は、柔らかそうというよりも、冷たそうだ。
静かな教室の中で、彼女が机を叩く音だけが鼓膜を揺らす。
「どうしたの、さっきからずっと黙ってるけど暇なの?」
声をかけてきた彼女の顔は微笑んでいる。響いていた机を叩く音も止んでいる。こつこつ、こつこつ。まだ聞こえるこの音は幻聴か。
椅子に背を預けて、彼女を見る。ぎしりと、古い椅子が立てる音は耳障りだ。
「つまんなさそうにしてたから見てただけだ。別に、なんの意味もない」
「そう。ひどいのね、私が暇なのが分かってるのになにもしてくれないなんて」
微笑む彼女の顔に影がさす。ばさばさとカーテンが揺れた。開いている窓から差し込む光はオレンジ色に染まっている。
小さな溜息を堪えて、立ち上がる。彼女の座っている席まで歩いて、細い指を握った。
「とりあえず、もう帰るぞ」
ひんやりと冷たい指は、俺の手のひらの上で動かない。そっと彼女の名前を呼んで、やっと握り返される。
暇つぶしに机を叩く癖だけは、やめさせようと決めて、教室を出た。

誰もいなくなった教室は、がらんと広い。

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